【海外就職】現地採用の3つのメリットとデメリット。失敗しないために、企業が求めるものを知ろう

ホタイブログ

海外就職について、ネット上でははなばなしい成功ストーリーもあれば、失敗してこりごりといった話や、はなから無理といった声もあります。
しかし、日本にいると身近に現地採用の人はいないため、現地採用とはどんなものなのかよくり分かりません。

筆者は海外に20年住み、現地採用として勤務した経験もかなり長くなりました。また、多くの人の事例も見てきました。この経験を踏まえて雇う企業側の理由と、現地採用のメリット・デメリットの両面を3つにまとめて説明します。

  • メリット:
    ①自由な滞在期間
    ②仕事能力のスキルアップ
    ③語学力アップ
  • デメリット:
    ①待遇の低さ
    ②不安定な地位
    ③公的福利厚生がない

この記事を読めば、どうして「現地採用」という形態があるのか、そしてその良し悪しを見極めれば、どのように進めば海外でうまくステップアップしていけるかの道筋が見えてきます。
「こんなはずではなかった」と後悔しないように、事前に良いところと問題点を把握しておきましょう。

海外に移住するにあたって、生活するためにまず収入が必要になります。就職には様々な選択肢がありますが、現地の日系企業に現地採用として働くことは、「日本語」が武器の一つとなり、また通常労働ビザも会社側で準備することから、特に海外第一歩では有力な選択肢になります。

日系企業で働く場合、現地で労働契約を結ぶと「現地採用」になり、現地の労働法の適用対象になります。これに対して、日本で労働契約を結ぶと勤務地が海外でも「日本採用」となり、日本の労働法の適用対象になります。この違いが重要になってきます。

目次

海外就職、企業の事情を知ろう ー失敗しないためにー

現地の日系企業は、なぜ現地で日本人を雇うのでしょうか。単に人でが足りないならば現地の人を雇えばすみますし、日本人が必要なら日本から人を呼べば済む話です。
この点を理解すれば、何が求められているかがはっきりし、より良い待遇を得られるような行動につながるでしょう。現地の日系企業が日本人を雇うのは主に下記の6つの理由からです。

  1. 人件費の低減
  2. 必要な人材の不足
  3. 人件費調整の容易さ(解雇できる)
  4. 現地の文化の把握、日本文化理解のため
  5. 長期に在職する人材が必要
  6. 日本人としての倫理観

2の人員調整と5の長期に在職は矛盾していますが、詳細はこれから説明します。

1.人件費の低減

企業にとって、人件費は大きな経費です。特に日本人を日本から派遣すると、それまでの給与にプラスして、海外出向手当て・海外での住居費・駐在者保険・一時帰国費用等がかかります。さらに家族帯同であれば住居費、保険費用がプラスされ、子供の学費負担まで含むと膨大な金額になります。
この人件費の低減が現地で日本人を雇う最大の理由です。

2.要求される人材の不足

海外に派遣される駐在員は、管理業務の経験があり、業務に精通した人材か、将来有望な若手に経験を積ませるために選ばれることが多いようです。まれに不祥事を起こしたり、パワハラ系の人が日本での受け入れ先がなく、海外に飛ばされてくることもありますが、これは現地では非常に迷惑です。

氷河期と呼ばれる時代が長く続き、海外に派遣できる人材が枯渇している場合には、現地社員への管理者育成が第一となりますが、現地社員の転職リスクや信用リスクを考慮し、現地で日本人を採用することがあります。この場合は、業務経験のある中途採用が求められます。

3.人件費調整の容易さ

現地採用は現地での労働法の対象になりますから、当然日本のような正社員保護はありません。基本的には契約社員と考えてください。どの企業も解雇を前提としての採用はしませんが、経済状況の変化によっては契約更新がなかったり、あるいは契約に則った方法での契約解除も発生します。現地採用者の給与は他の現地社員よりも高いため(現地採用日本人の給与水準はなぜ高いのか)、人員削減を行うなら、真っ先に対象となる可能性があります。企業としては、解雇ありきではないものの、解雇できる裁量のある人を雇いたいのは、日本で契約社員を雇うのと同様です。

4.現地の文化の把握、日本文化の理解

現地採用者の特徴といっていいのがこの点です。
現地企業では、どのようにして日本人と現地社員がコミュニケーションをとっているでしょうか。
英語や日本語通訳を介して、または駐在員が独学したつたない現地語や、現地社員が独学したつたない日本語で意思疎通をしています。
日本語通訳を介しても、なかなか細かい微妙なニュアンスが伝わらなかったり、言語以前に根本的考え方が異なったりすることがあります。また、現地社長自身が納得できないような本社命令を、現地管理者に納得させて施行しなければならいこともあります。
この本社ー現地会社間の摩擦を解消する調整役が求められます。
そこで両方の言語・考え方・立場が分かり、業務を調整して進める人が必要となります。

調整の内容は、言葉だけではなく、サービスの精神であったり、物事を徹底的に行うといった日本の考え方や、家族第一主義といった現地の考え方との違い、本社ー現地会社間の軋轢と多種多様です。それを事前にアドバイスしたり、考え方の違いを説明したり、逆に日本側を説得したりもします。とにかく業務を円滑に遂行させることが求められます
このためには、現地の知識、生活経験、ある程度の語学力、それに調整能力が求められます。

社内だけでなく、取引先が日系企業の場合、日本のやり方やコミュニケーションを理解していることが必要となり、日系取引先の窓口や担当となったりします。

5.長期在職する人材が必要

会社というものが長く存続するにあたって、それが現地社員であれ日本人であれ、長く在職する人は重宝されます。
それは会社への忠誠心や愛社心といった抽象的なものにも捉えられますが、実際の業務でも便利なことが多いからです。

駐在員は数年で入れ替わり、また現地社員は転職することも多いので、数年前のことが分からなくなることがあるのです。日常業務はだいたい普通にまわりますが、過去に起こった事件や問題は、その経緯・理由・対処などの詳細な部分が不明になってしまうため、長く在職している人に、その内容を確認するのです。特に問題や不祥事が起こった際には、過去にどのような処理をしたかなどは、問題解決の大きな手掛かりとなります。
蛇足ですが、長く在職した人の中でも、会社立ち上げの時から在職している人には、格別の敬意が払われます。

6.日本人としての倫理観

これは、通常企業側も求職者側もあまり意識していません。また上記4.日本文化の理解に含めることもできます。しかし、重要な点としてあえて強調します。
国にもよりますが、社員のモラルが低いところは多くあります。管理者が不正に関与することも多く、信頼していた部下が不正に手を染めたのが発覚し、駐在員が人間不信に陥ったと言うような話は枚挙にいとまがありません。
駐在員は入れ替わりがあり、実業務は現地管理者が行っているため、ごまかされたり、不正に気づいても見て見ぬふりをすることもあります。
そこで、不正の発生しやすい部署や、監督部署に日本人を配置するのです。
日本人だからと言って不正が発生しない保証はないのですが、少なくとも地縁・血縁などのしがらみがなく、一定のモラルを期待できるのです。
その国が好きだった現地採用者が、不正の発覚を目の当たりにして深く失望してしまうこともあります、

現地採用の3つのメリット ーステップアップのためにー

企業の事情がわかったところで、現地採用のメリットを説明します。

1.長期滞在できる ー労働ビザの取得ー

駐在員に任期が決まっていたり、必要に応じて帰国命令がでるのと裏腹に、現地採用には転勤がありません。好きなだけ現地に滞在できます。

会社の業績や経済の状況により、契約を切られることもありますが、それは帰国を意味するわけではありません。
現地採用としてのスキルを磨いておけば、逆にステップアップのチャンスともなります。日本企業は転職回数の多い人を好みません。求職理由が会社理由の人員削減であれば、ネガティブでない求職理由の説明になります。

国や状況によりますが、大体現地採用の基本は、給与支給と労働ビザ手配が最低条件となります。現地の会社では、そもそも労働ビザの取り方なども知らなかったりしますが、日系企業であれば、駐在員のための日常業務にはいっているため、手続きや必要書類等のノウハウがあります。この点も、日系企業の現地採用を第一歩としておすすめする理由です。

2.仕事能力のスキルアップ

業務のスキルアップ

現地採用された場合、他の現地社員より給与が高く、日本語スキルもあるため、若くても管理的な業務につくことが多くなります。
また、業務自体も日本よりも規模が小さくなるため、日本であれば業務のほんの一部分しか担当できないのに、海外であれば全体を見渡せるような業務につくこともあります。これは駐在員でも同様です。
例えば、営業であれば、日本では客先が小さく分類されたその一部を担当となるところを、現地では全ての日系取引先を担当する、というような感じです。

組織の規模も小さく、社内の日本人も少ないため、日本であれば話す機会のないような幹部と業務を行うことができるので、非常に勉強することが多いです。駐在で来る人はほとんどがある程度の能力を日本で認められている人なので、一緒に仕事をすることは非常に有益です。(たまに姥捨山のように厄介払いされてくる人もいます。)
その反面、一つの業務全てを任されることも多いので、一兵卒として働くのではなく、自ら計画・実行しなければならず、責任は重いものの、能力は伸びます。
自分で立案したものが現実化し、達成していくのを楽しめるようになればしめたものです。

管理・調整能力のアップ

若くして現地社員を束ねたり、日本人管理者の指示や日本本社の指示を遂行しなければなりません。両者の橋渡し役でもあり、板挟みにもなりがちです。
日本側、現地側双方への助言として、反対意見や妥協案も出しますが、やはりメインは上からの指示を何とかして遂行することです。正攻法で、説得や上位職の名を使っての正面突破もありますが、根回し・多数派工作等、からめ手的な方法も使います。はじめは板挟みで苦悩しますが、状況に応じて様々なテクニックを使えるようになると、これが立派なコミュニケーションスキルであると分かってきます。

3.語学力のアップ

現地にて、現地の言葉でコミュニケーションをとるため、語学力はアップします。
特に仕事で使う業務上の言葉や言い回しは覚えなければ逆に仕事ができません。ある意味追い込まれた状況で勉強することになります。
ここで注意するのは、ある程度のレベルに達し、業務に支障のないレベルになると、語学はそれ以上伸びません。常に意識して語学学習に取り組みましょう。語学の習得に終わりはありません。
海外でのんびり働きたい、などと行った考え方では、ステップアップは不可能です。環境を生かして継続した努力が必要です。

現地採用の3つのデメリット ーステップアップのためにー

1.待遇の低さ

企業側の現地採用を求める第一の理由は、人件費の低減です。待遇は日本採用より低くならざるを得ません。残念ながら、日本採用よりコストが高ければ、企業は雇いません。
例外としては、あなたがプロフェッショナルとして、日本の人材では代替できない存在となれば、待遇は良くなります。あなたのコストに見合った効果を出せれば(出すと期待されれば)企業は喜んで高待遇で迎えてくれるでしょう。

では、何をプロフェッショナルとするかですが、これは業務によって異なりますが、現地のプロフェッショナルとなるならば、現地の語学力、社内外の調整能力はまず不可欠で、それにプラスして自分の専門分野での業務能力となります。

現地採用だから、契約社員だから、と責任を避け続けると、それ以上の責任を担うチャンスはなくなります。現地採用で現地社長になれる人がいるならば、それはどのような人材か、と考えると分かりやすいと思います。

現地採用で、ある程度の経験・知識を積んでから起業・転職をと考えている人もいると思います。いずれにせよステップアップするには、プロフェッショナルを目指すべきです。
日本でも海外でも、だらだらと時間を過ごしている人にチャンスはありません。

2.不安定な地位

企業は、長く勤める人を希望しますが、同時に何かあったら契約解除できる人も希望します。本音を言えば、優秀な人には長くいて欲しいし、能力のない人はいらないのです。
日系企業ですから、多少能力が不足していても問答無用ですぐに解雇ということは少ないようですが、リーマンショック、コロナ禍など経営状況に大きな変化があれば、ためらうことはないでしょう。
そしてそれは現地社長の胸三寸で決まります。
日本でも終身雇用制度が崩れるなかで、海外でそんなものを求めるのはナンセンスです。いかに切られないポジションを築いていくか、切られてもすぐに転職できるスキルを手に入れらるかが鍵になります。
常に人材マーケットの動向に気をつけ、生活費2,3ヶ月分の貯金は持っておきましょう。後述するように、失業手当などはありません。全ては自己責任、実力主義になります。

3.公的福利厚生がない

労働契約が日本ではないため、日本の公的な福利厚生はありません。社会保険・国民年金・失業保険はありません。
もし加入するなら、日本に現住所を残し国民保険に加入する、国民年金も同時に加入する、という方法か、国民保険だけであれば、現住所がなくても任意で継続するといった方法があります。
これらの手続きを継続するには、定期的に日本に帰ったり、あるいは代理人にお願いするなどで、結構煩雑です。必要性や実際に継続できるかどうかをよく考えて決めてください。
将来に備えての貯金や投資などを、計画的に行っていく必要があります。
現在日本の年金と保険負担はどんどん増加しています。私的な積立や保険でまかない、公的な年金や保険を払いたくないという人には、逆にメリットかもしれません。
この辺は、ひとそれぞれの考え方や将来設計によります。

海外就職に失敗しない、ステップアップするためには

現地採用に企業の求めることと、現地採用のメリットデメリットを まとめました。
特に企業の求めることには、かなり厳しいとか冷たい、と感じる人が多いと思います。しかしこれが現実です。日本国内でも海外でもコストを下げ、払ったコストより収益を上げたいというのが企業の根本的なあり方なのですから。

だからといって諦めてしまうのは早計です。メリットにまとめたように、現地採用では日本にいるよりスキルアップの環境が整っているのです。例えば、同じ5年間日本で懸命に働くのと、5年間海外で同様に働くのであったなら、どちらの方がスキルが伸びやすいでしょうか? 仮に業務能力が同じだとしても、語学力は雲泥の差でしょう。ということは、5年後に帰国した際にどちらの転職が有利でしょうか。
また、現地の言葉を使えることと、そこでの勤務経験は、あなたの専門性を格段に上げることになります。仮にロシアと貿易を行う会社があったとして、ロシア語に堪能で業務経験のある人と、英語に堪能で業務経験のある人であったらどちらを雇うでしょうか。
ただし、「海外で○年働いていた」というだけではキャリアにはなりません。「単に海外経験があります」では、語学留学しているのに語学能力テストの点数が低いようなものです。何をしていたんだろうと疑問に思われるだけです。
海外就職でのキャリア形成で最低必要なものは下記の3点です。

  1. ビジネスレベルの語学力
  2. 管理業務経験
  3. 特定業務経験

語学力は言うまでもありません。管理業務経験とは、係長・課長・部長等の管理職につくことです。特定業務経験とは、営業・経理といった特定分野の業務経験です。職務経験がない場合は、管理業務につくまで2,3年、経験をつけるの2,3年くらいは必要でしょうか。これがないと、海外で数年遊んでいただけと見られることになります。

仕事のキャリアと積むということは、専門の幅は狭くなっていきながら、その分野の知見と経験が深くなっていくことです。現地採用とはその専門性を伸ばす大きなチャンスなのです。逆にこのチャンスを活かせないと、言葉もできず、管理業務もできず、ただの雑用を行っていただけで、最終的に「現地採用 後悔」とか「現地採用 やめておけ」の一員に仲間入りするだけです。

「海外で新しい人生を」だとか「世界に羽ばたく」だとか空疎な言葉は無視しましょう。冷静に、現実的なキャリアや自分の適正をみて判断しましょう。
ただ、挑戦しての失敗や、後悔は長期的に見れば、それもまた有用な経験であるということも忘れないでください。

どのような国に、どのような職があるか調べる:JAC Recruitment

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