海外で働くにあたり、現地社員との関係をどのように築いていくか、不安だったり、現にうまく行かずにストレスを抱えている人もも多いと思います。
筆者は、海外に20年暮らし、4社で働いてきました。その経験で、どのように効率的に職場の人間関係を築くかを説明します。
人間関係の構築は、性格や才能によるものではなく、意識的に一定の方法で行えば、狙った関係を構築できるのです。
海外の日系会社で働く場合、駐在・現地採用を問わず、日本人は管理者として働くこととなります。
しかし現地では、すでに長年その会社で働いている人も多く、自負と自信を持って働いています。
そこで急にやってきた日本人が上司になったり、間接的に指示を受ける立場になるため、心中複雑な思いで、その日本人の行動を注視します。
特にその日本人が若かったり経験が浅かったりすると、表面上は丁寧で礼儀正しくても、実は軽く見られて、業務がうまくすすまないといったことも起こります。
特にはじめにうまく関係を構築すると、後々までスムースに仕事を進めることができます。はじめから優位に立った関係をつくるのが解決方法となります。
この記事では、3ステップを踏んで「注意するーされる」という行動を通し、スムースに上下の関係を構築する方法を解説します。
目次
【海外就職の人間関係】人間関係は半固定で、全面的
人間関係とは、上下関係のように決まった関係性を持ちます。そしてその関係は、不変ではありませんが、変化には時間がかかります。
分かりやすく説明すると、教師と学生のようなものです。恩師に「鈴木先生」がいたとして、卒業した後は、もう教師ー学生の関係ではありません。では、次に会った時、「あ、鈴木さん」と呼ぶでしょうか?やっぱり「鈴木先生」ですよね。
「教師と学生」の関係が固定しているのです。そのため何年たっても先生に対しては○○先生と呼びかけるのです。
かといって、完全に固定しているわけではなく、あなたが昇進した場合、かつての上司とは、はじめは上下の関係が残り、同列になったといえどもいろいろ教えてもらう関係ですが、やがて上下関係は完全になくなり、完全に同列の関係となります。
つまり、人の関係は、完全に固定されるわけではなく、半固定的と言えるのです。
はじめに上下の関係を作れば、ある程度そのまま継続する可能性が高いのです。
また、上下関係のように、「注意する側-される側」、「指示する側-される側」という図式ができてしまうと、人はその関係に従うようになります。
ある一つの点でその関係が固定化されると、他の点でもその関係に引っ張られるのです。
上司と部下が、プライベートで同じ趣味をもっていたとして、その趣味の世界では上下関係はないはずなのに、やはり趣味の時間でも「上下」の関係を引きずってしまいます。
この2点を利用して意識的に人間関係を構築すれば、自然に上下をともなった関係になり、仕事も進みやすくなることになります。
【海外就職の人間関係】初期に関係性を決める--失敗しないために
人は、出合ったはじめの関係性が固まる前に、意識的に狙った関係性を作ると、そういった関係となり、それが継続すると、その関係はさらに強固になります。
職場で言うと「注意する-される側」というのが分かりやすい関係です。注意する側は上、注意される側は下、という上下関係が発生します。
良い人間関係を作ろうとして、無意識に「お友達」のような同列関係を目指す人が多いのですが、管理者として仕事をするのであれば、それは避けるべきです。
もし、管理者として、部下と仲良くするのであれば、親分肌のような、厳しいながらも話がしやすいといった関係を築かないと、業務指示が通らず、自分の上司と部下の間にはさまれストレスを抱える結果となります。
日系企業で日本人が働く以上、自分は管理者となるという自覚を持たなければなりません。
まず、「自分が上に立つ関係を作る」という意識を持ち、行動をとることが必要となります。
会社に入社したり、赴任したばかりの状況で、どのように「注意する」ことを行っていくかがカギです。
特に、新卒や若手である場合は、業務経験が浅く、何を注意するべきかも分かりません。
間違った注意をして、逆にたしなめられると自分が「注意される」こととなり、本末転倒になってしまいます。
そこで、どういった点で間違いなく注意できることを見つけるかが大切になります。
海外就職 人間関係構築のステップ1 絶対優位なポイントを見つける
私は、製造業に長らく従事していますが、製造業であれば、「5S」(整理・整頓・・・)などが良い例になります。日系企業であれば、ほぼ全ての製造業が5S活動に取り組んでいますし、そして5Sに終りはありません。
どのような工場でもかならず5Sの不足点はあります。5Sの欠点を指摘され、できない理由は出てきても、指摘自体が否定されることはありません。
まずはじめに、このような間違えようのない指摘事項を探すのです。それは、5S、消防・環境・衛生等の関連公的機関からの要求、法令、会社の就業規定、ISO規定、本社規定、あるいは顧客からの要求などかもしれません。
難しいな、と思えるかもしれませんが、シンプルに考えてください。重要なことは、「注意する」という行為であって、注意の内容はなんでもよいのです。
極端に言えば、消火栓の前に物が置いてある、事務所のここにごみがたまって汚い、パソコンの電源の近くにコップが置いてある、等々 小さなことでも構いません。
客観的に「守らなければいけないもの」を見つけ、これをもとに現状の業務を見るのです。基本的にこれらに違反することはできないので、注意したことが間違っていたりすることはまずありません。
仕事を始めるに当り、業務開始の一環として、就業規定や自分の業務に関連するISO規定などの資料を貰い、一読してどのあたりが利用できるポイントかはつかんでおくとよいでしょう。
違反を見つけたら、ドキュメントのコピー、写真等の証跡を残します。写真は注意時に分かりやすく、効果的です。
海外就職 人間関係構築のステップ2 上司との事前調整
上司への報告を行います。なるべく職位が高く、できれば社長に直接報告すると、後がやりやすくなります。海外の日本人数は少ないため、社長との距離が近いため、相談のような形に持ち込みます。
直属の上司がいる場合は、上司を飛ばさないようにします。報告の反応を見て、どのような形で注意すべきかのアドバイスを受けます。
できれば定例ミーティングのような席で、全体の前で発表すると、表立った反論ができず、また出席者全員に「注意する人・チェックする人」という印象を与えられます。
あるいは、社長や上司があまり興味を示さない場合には、その部署責任者へEメールで注意事項を送り、社長・直属上司にCCで送る、のような形でも良いかもしれません。
Eメールの場合は文章になるので、内容が分かりにくくなります。写真があると効果的です。
この発表を定期的に数回行うと、各部署の現地責任者はあなたを警戒するようになり、業務チェックをしている時に、カメラでも出そうものなら、急いで飛んでくるようになるでしょう。
ここで、ほぼ上下の関係ができていることになります。注意事項の事後確認も行い、注意したことが改善されていない場合は、次の報告に載せることとします。
海外就職 人間関係構築のステップ3 直接注意
ミーティングで違反事項を発表されたり、社長に直接報告されたりすることは、かなり嫌がられます。
こういった注意・報告を行っていると、それぞれの部署から警戒され、やがて敬遠されたり嫌われることになります。
上下関係ができても、嫌われるのは目的ではありません。嫌われると、それはそれで仕事がやりにくくなります。
そこで、数回注意を行った後、次に各部署の責任者に直接口頭で注意をします。違反の内容をミーティングや社長報告する前に、教えるのです。
上に報告されるミスを事前に教えてくれたことで、その責任者はあなたに感謝します。そこで「注意するーされる」の関係が確立する上に、「四角四面ではなく話が分かる人」と受け止められ、その後の人間関係がよくなります。
報告しなかった点については、欠点は欠点ですので、すぐに改善されない場合は、やはり社長に報告になります。
このようにミスの注意と、事前に教えるといった行動を通して、「お友達」のような馴れ合いの関係ではなく、メリハリのある人間関係を構築することができます。
一度このような関係を築いた後は、継続です。たまに不備点を見つける、それを口頭で指摘する、といったことを、月に1,2回行うだけで、この関係性は継続し、長く続くとさらに強化されます。
現実に即していない、守れない規定や業務フローを見つけた場合、「この規定は守れません。このように修正する必要があります。」といったような報告を社長や上司に上げると、現地管理者からの信頼度はさらにアップし、「頼りになる」といった印象を与えることになります。現地管理者の方から、この問題はどうしよう、といった相談が来るようになれば、あなたはすでに、職位だけでなく、心理的にも完全に「上司」の位置にいることとなります。
この「注意」「業務チェック」は本来の仕事ではないかもしれません。しかし、一度上下関係が確立されると、本来の業務にもこの上下関係は持ち込まれ、あなたの指示は「上からの指示」として受け入れられるようになります。全体的に「注意する人」という立ち位置を確保できれば、仕事の指示・手配が全ての部署に通るようになり、業務が非常にスムーズに進むようになります。
海外就職で人間関係に失敗しないために
良好な人間関係の構築は、性格や才能に頼るものではなく、意識的に作り出すことができるものです。
優位点を探す→上司への事前調整と報告→直接注意のステップを踏むことで、確実にメリハリのある上下関係を構築することができます。
これから新しい職場で働く方は是非試してください。
また、すでに働いている職場でも、時間をかければ人間関係を変えていくことができますので、少しずつ「注意」を行って見てください。
最後に、「監査」といった業務は、人のあら捜しのようで敬遠されがちな業務ですが、上記の理由から、実は自分から名乗りを上げるくらい重要な業務です。業務上の必要性だけでなく、人間関係をうまく構築できれば、その他の業務も有利に遂行することができます。
「監査」というと大仰ですが、下記のような業務チェックの仕事はよくあるので、是非、手を上げて挑戦してみて下さい。
ISO内部監査 J-Sox内部監査 客先クレームへのフォロー 品質監査 環境監査 消防監査 会計監査、5Sチェック・・・・・
このような人間関係は、問題点を上に報告という「硬」と事前に教えるという「軟」の硬軟を織り交ぜた方法です。こうして人心を掌握することにより、現地社員をコントロールできる存在になれます。そして、そういった存在は他の日本人に対しても一目置かれるので、毎日の会社での生活が過ごしやすくなります。
前記事にまとめたように、現地語の語学力があれば更に効果は倍増することとなります。
——ホタイブログ—–
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