【海外で働く】意訳と直訳どちらを重視するか?
ー社内兼業通訳ー

ホタイブログ

言語を翻訳する時には、意訳と直訳のどちらに重きをおくかで悩むことがあります。
場面にもよりますが、社内兼業通訳の場合は、ほぼ意訳になります。一語一語の意味より、何を伝えたいかを重視しなければならないからです。
また、状況によってかみ合わない会話を防ぐ意味もあります。

*本記事での「社内兼業通訳とは、社内でメイン業務を持ちながら、サブ業務として通訳を行うことをさします。【海外で働く】社内兼業通訳という仕事

目次

社内兼業通訳に求められること

業務上で行われる社内コミュニケーションは、指示・報告・連絡・ディスカッション等が多くなります。その中で重要なことは話し手の意図を正確に聞き手に伝えることです。
仮に話し手が怒っていれば、その感情も伝えなくてはならないということです。
これを踏まえると、直訳ではスムーズではない、あまり感情的でない表現になりがちになるので、意訳で感情も伝わるようにする必要があるのです。

また、意訳を行わないと会話そのものが成立しないことがあります。
信じられないかもしれませんが、下記のようなちぐはぐな会話はしばしば発生します。

問:昨日の売上げはいくら? 
答:昨日は雨でした。

これをこのまま訳すと、話している人が怒り出したりします。「ちゃんと訳しているのか!」となるのです。
しかし、このちぐはぐにも下記のような理由があるのです。

  1. 先回り:聞かれた人は、売上げが落ち込んでいることを知っていて、叱責されることを恐れています。そこでその先の売上げ落ち込みの理由を説明しようとして、「昨日は雨でした」(それで客足が落ちました)と言っているような場合。
    話している人が叱責しようとしているならまだ話が通じるのですが、単に昨日の売上げが知りたいだけの場合にこのような回答がくると「???」となります。
  2. 理解不足:職位レベルで離れた人が話すと発生します。聞かれた方は、いままで意識したこともなかったようなことを聞かれるとうまく反応できません。
    話す人がお店の責任者で、売上げ情報の共有状況を調べようという意味で、お店の守衛に売上げを聞く、というような状況があったとします。すると、守衛は思ってもいなかった問いに窮します。しかし一生懸命考えてズレた返答をしてしまうのです。通訳者としては、「分かりません」と答えてくれた方が良いのですが。

こういった場合は意訳をします。「昨日の売上げを知っていますか? 何円でしたか?」 と聞くとちぐはぐな回答が少なくなります。

「何円?」と明確に単位を指定した問いには、同じ単位で返答する方向に促すので、先回りしがちな人は、○○円と答えます。(そして理由を述べ立てます。)理解不足の人は、「知らない」という選択肢を与えているので、答えやすくなります。
原文の一文を二文にしていますが、こうしないとスムーズな回答が期待できません。
そのまま直訳してそのまま通訳し、「雨でした。」という返答を返しても、話し手は「いやだから、昨日の売上げは….」と再度質問しなければなりません。通訳者がそれを見越して「いや雨じゃなくて……」と通訳せずに再質問をしていると、今度は話し手にとって、「簡単な質問なのに何を長々と話しているの?」ということになります。

上記は一例ですが、このような場面はしばしば発生し、この人はきちんと通訳しているのだろうか?という疑念も生まれてしまいます。あえて言ってしまうと、話し手の言葉を聞くのでなく、意図を汲むのです。話し手の望む回答を引き出せる質問に置き換えるといっても良いでしょう。話し手の知りたいことは昨日の売上げなので、昨日の売上げがいくらかという返答を引き出せる質問に置き換えているのです。

極端な例を出すと、話し手が「昨日のあれどうだった?」というような質問に、社内兼業通訳はその意図を汲んで、「昨日製造1課で発生したAAAモデルの品質不良の解析は終わった?」のような意訳が必要になるのです。
確かに、「あれどうだった?」のような会話は社内ではよくあると思います。しかし相手によってそれで分かる場合もあれば分からない場合もあります。この分からない部分を補佐・補足するのも役目の一つと言って良いでしょう。

語学力不足のカバー

これは、意訳したいわけではなく、仕方なくそうなってしまいます。
特に新しい語彙や、ことわざを使われ、それにあたる言葉が出てこない場合です。
ことわざなどは、通訳する言語で該当することわざがすぐに出てくれば問題ありません。しかし、出てこない場合は、そのことわざの意味するところで説明します。

また、うまく該当する言葉が出てこない場合にも、その言葉の意味を読み取って、他の言葉で説明することになります。
語学力が不足しつつも通訳しなければなららい場合は、とにかく話し手の意をくんで、その意を伝えるようにすることによって、語学力の不足をカバーします。

意訳してはいけない場合

社内コミュニケーションは大体意訳のほうが通りやすいのですが、業務上の契約や、他社との取り決めなどについては、誤差がでると大きな損失が出る可能性もあるので、この場合は多少不自然でも一言一句正確に訳すように努めます。

社内兼業通訳のこつ

社内兼業通訳の強みとして、通訳する事柄の、トピック・話し手/聞き手の関係・その国の状況が分かっています。
その状況に応じて、伝わるように、理解しやすいように訳していくことがポイントです。
また、社内兼業通訳は、形式ばったやり方ではないので、補足などをつけ加えることにより、さらに相手の意図を明確に伝えることができます。

ベトナムで、「今日は、出勤率が低いですが、何の日ですか?」といった問いに対し、
「満月(rằm)の日です。」といった返答では、日本人には何のことが分かりません。
そこで、「ベトナムでは、満月の日は、日本のお盆の感覚に近く家族で過ごす習慣があります。」といった補足があれば質問の意図を満足させることができます。

実は「満月の日です。」と答えた人は、相手もこの習慣を知っているという前提のもとで答えています。前提を抜きに「満月の日です。」とだけ訳したのでは片手落ちです。必要な補足を加え、質問の意図を満たすようにすべきでしょう。

社内兼業通訳は意訳

通訳に求められるものは、コミュニケーションを円滑に行う仲介者となることです。
そのためには、一言一句正確に訳して本来の「意図」から離れてしまうのではなく、むしろ言葉を伝えるより「意図」を伝えることが重要になります。
また、通訳するということは、コミュニケーションの双方の言葉が通じない、つまり文化的理解ができていないことが多い、と考えて良いでしょう。そこで、一方の文化背景を考慮し、文化背景等の補足説明をすると、より円滑なコミュニケーションを図ることができます。

ただし、ビジネスの場で、厳密な語句の差意が大きな問題となる状況では、多少不自然でも直訳したほうが良いでしょう。

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